『最も賢い億万長者〈上〉 数学者シモンズはいかにしてマーケットを解読したか(著者:グレゴリー・ザッカーマン)』の書評です。
【書評・レビュー】最も賢い億万長者〈上〉
まず、本書はジム・シモンズ本人が書いた書籍ではないことに注意が必要です。
ジム・シモンズ本人は秘密主義者で、本書を書かないでくれと著者に頼んできたぐらいです。
ですので、ヘッジファンド・メダリオンの具体的な手法を本人が語っているのを期待している方は、この本を買うべきではありません。
本書は、あくまでウォールストリートジャーナルのシニアライターであり、ノンフィクション作家でもあるグレゴリー・ザッカ―マンが取材を重ねてジム・シモンズについて書いた伝記です。
それでも、ジム・シモンズ本人への取材やその周辺の人へのインタビューを通して、投資手法へのヒントは散りばめられておりますので、トレーディングの参考にもなるはずです。
以上が本書の書評・レビューに入る前にまず押さえておきたいポイントでした。
最も賢い億万長者〈上〉を一読してみた感想は、ジム・シモンズ、意外と人間味ある人だなということでした。
ジム・シモンズの情報は数学者で、ヘッジファンドマネージャーということぐらいしか知らなかったので、もっと感情を表に出さない、機械のような人だと勝手に想像していました。
しかしながら、IDA(国防分析研究所)でソ連の暗号解読をするという国防の仕事をしているにも関わらず、ベトナム戦争に反対してクビになったり、同僚との軋轢や友人の間ではユーモアのあることで知られていたり、出てくるエピソードがどれも人間的であり、学問やトレード以外のところでは普通の人であったことが伺えます。
本書で特に印象に残った言葉は、以下のスローガンです。
国防分析研究所(IDA)のスローガン『悪いアイデアは良い。良いアイデアはすごく良い。アイデアがないのはとんでもない』by レニー・バウム
レニー・バウムとは、ジム・シモンズの最初の投資パートナーであり、IDAの同僚でもあった数学者です。
このスローガンは、ルネサンス・テクノロジーズの頃のものではないのですが、その主義・主張はジム・シモンズのトレーディングにもかなり影響を与えていると感じました。
というのも、本書を読む限りではジム・シモンズはかなりのアイデアを試し、時代に合った投資手法を探していました。
本当にあらゆる手法を試したようで、古今東西問わず、検証していったようです。
その中で、コンピュータを駆使した現在のAI投資の先駆けとなるようなアルゴリズム投資に傾倒していきました。
ここで大事だと思ったのは、数学界では何々予想のように、こうなるのではないかという仮説を立てた後に問題を解いていくように、投資においても、仮説→検証のプロセスを行ってきたということです。
その成果がルネサンス・テクノロジーズの成功に繋がったのは間違いないでしょう。
シモンズの投資手法とは
シモンズの手法は、時代によって変わっていったようです。
それに、本書では投資手法に関して参考になる箇所はあるのですが、具体的な部分に関しては不明です。
ジム・シモンズの言葉として、『価格変動のパターンはランダムではありません。しかし、それらはランダムに十分近いのです。』というものがあります。
ここから推測するに、ランダムではない部分を利用して、全体として期待値を高める手法であることはわかります。
ただ、それはヘッジファンドであればどこも同じで、特別なことではありません。
ジム・シモンズのすごさは、投資とは関係のない専門家を多数集めて、あらゆる方向からランダムでない部分のエッジを探し、さらには最先端のAIを活用し、常に時代の先を行っていることにあるようです。
画像引用:グレゴリー・ザッカーマン『最も賢い億万長者〈上〉 数学者シモンズはいかにしてマーケットを解読したか』ダイヤモンド社, 2020年,p277
上記のメダリオンの収益を見ても、30年間という長期に渡って、平均年間純収益率が39.1%と凄まじい数字を残しています。
これほどまでに安定して高収益を残せているというのは、変わり行く投資の世界において、常に手法をアップデートしていると推測されます。
画像引用:グレゴリー・ザッカーマン『最も賢い億万長者〈上〉 数学者シモンズはいかにしてマーケットを解読したか』ダイヤモンド社, 2020年,p278
ちなみに、このジム・シモンズのリターンは、ジョージ・ソロス、スティーブン・コーエン、ピーター・リンチ、ウォーレン・バフェット、レイ・ダリオという大物投資家と比較しても、頭一つ抜け出ている数字です。
この39%という収益率は、複利運用したとして、100万円が10年で約2700万円になり、20年で約7億円、30年で190億円になる計算です。
そう考えると、この39%という数字のすごさがわかると思います。